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イラストからコインペンダント製作物語

オーダーメイドコインペンダント製作物語

お子さんのイラストからコインペンダント

あなたの想いを言葉を形にします

先日のこと。「コインペンダントを作ってほしい。」とお客様から相談を受けました。

コインといいますと、イギリスの女王を描いたエリザベスコインや、葉っぱを描いたメイプルリーフコインなどが有名ですね。
なじみがあるのが、私たちが毎日使う500円玉100円玉などでしょうか。
しかしこのようなコインは、製造される国家の威信をかけた高度な偽造防止技術で作られています。
以前造幣局を見学したとき、30センチほどの原型から縮彫機で100円玉の極印を作るのを見た記憶がありますが、
私たちにはもちろん、そのような腕も技術も設備もありません。
それに、0.5ミリくらいの凹凸で、人の顔などの立体感を表現するのは至難の業です。
これは作ることはできないのでは? と思いながらも、日々の生活がかかっているので(笑)
「イラストなどがあれば作れるかもしれません」と答えてしまいました…。

メイプルリーフコイン
メイプルリーフコイン
(ギンザタナカホームページより)
こんなコインは到底作れません…。

それから数日後、そのお客様から電子メールでイラストが届きました。
そのイラストを拝見して、「ビビビ」ときました(古すぎ?)。閃きました。
お客様とお話していていつも考えるのは、「このお客様は具体的にどうしたいんだろう?」ということです。
私が考えるコインと、お客様が考えるコインは違うかもしれない。
お客さんの作りたいものの条件が5つあるとして、5つ全部は叶えられないかもしれないけど、
そのうち3つ叶えられるとすれば(価格も含め)、どのようなものになるのか?
そしてお客様の理想と現実をなるべくすり合わせて、ジュエリーとして形づくっていければと考えています。
そして「今すぐできるとしたらどのようなことか?」と一歩踏み出す方法を考えます。

それが今回の場合、イラストをお客様からいただくことだったのです。
イラストを拝見しまして、以前作ったタイガースコインペンダントを思い出しました。
阪神タイガースオーダーコインペンダントレーザー彫刻
いただいたのが写真だったら、思い出してなかったかもしれないです。
それはレーザー彫刻機を使って彫るのです。
レーザー彫刻機とは、パソコンの画像を元にプリンターで紙に印刷するように、寸分たがわず金属を彫る機械です。
まず、レーザー彫刻機で彫るための絵から描き始めました。
実際に彫るコインは3.3センチ(500円玉より少し大きい)ですが、5倍の大きさ16センチの大きさの絵を描き始めました。
なぜかといいますと、原寸で描くと細かい部分が描けないからなのです。
大きなものを描いてからあとで原寸に縮小する。造幣局の縮彫機も、同じ理由で縮小しているのでしょう。
拡大したイラストの上に硫酸紙(トレペ)をのせてなぞって、必要な線だけにします。
イラストをもとに出来上がったデザイン画。
これを描くことによって、大きさ、重さ、加工法、加工費、イメージなどが、職人とお客様で共有できるのです。
ネックレスは50センチで100gを通すので、折り返し金具が通る寸法で製作します。
このペンダントは、お客様からお預かりした18金を溶かして作らせていただきました。
お客様の金で溶かして加工する場合は、工場で精錬された金と違い、不純物があって加工しにくく、作るものによってはできません。
ホワイトゴールドの場合はほぼ再利用できず、精錬しなおさないと使えません。
今回はイエローゴールドで板状のものであるので、巣の影響はあまりないと判断ました。
石を外して溶かして3ミリの板状にします。
そして3.3センチの円形に切り抜き、
100グラムの18金キヘイネックレスが通るように金具(バチカン)を作り、取り付けます。
このバチカンを作るときは、デザインに配慮し、なるべく小さく作ります。
注意するべきところはネックレスの金具です。
ネックレスの幅、厚みよりも、1.2倍ほど大きいので、バチカンの大きさにはいつも悩みますし、ネックレスが通らないと怒られます。
男性用なので、丈夫になるよう、バチカンを取り付ける金具をコイン本体に深く差しこみロー付けしました。
これがあとからの問題発生になるのですが…。
そして、レーザー彫刻前のペンダントが出来上がりました。
コインの表面をペーパーで軽く荒らし、すりガラス状にします。
金属が光っているとレーザー光を反射し彫れないからです。
そして、印鑑を作るように、白と黒で彫る部分と残す部分を書いていきます。
白黒になるので、少し絵を誇張します。
出来上がったのがこの絵です。
ちょうど判子のように、黒いところをレーザーで彫っていくのです。
レーザー彫刻は、ヤスリやタガネと違って、彫刻した削った粉が出ないのです。
金が蒸発、燃焼、溶解して、消失してしまうのです。どこに行くのでしょうね。
きっと我々宝石職人を焼くと出てくるのかもしれません。
両面合わせて7グラムも蒸発してしまいました。
男の子面と女の子面が表裏になっていますので、ずれないように細心の注意を払います。
少しでもずれてしまうと一からやり直しです。
そして彫りあがりましたが・・・問題が発生しました。
深く差し込んだバチカン固定金具の部分までレーザーで彫ってしまい、ちいさな穴が開いてしまいました。
手作り加工の場合、こうした問題はつきものです。
経験豊かな職人仲間で相談して、問題をクリアーしていきます。
レーザーで開いた穴も無事埋めることができました。
表面の彫った輪郭のバリを取って、指定したところにダイヤを入れます。
当初はレーザーで彫ったところにダイヤを入れる予定でしたが
厚みが足りなくダイヤのお尻(キューレット)が出てしまうので、石座を作って取り付けました。
このようにして、ほぼ2ヶ月かかりましてようやく出来上がりました。
なんでもそうでしょうけれど、このようなものを作るにはひとりで作ることはできません。
お客様をはじめ、私や飾職人、彫留職人、レーザーを使う職人たちがよく話し合って
当事者意識で問題解決し、初めてうまく出来上がります。
特に今回のコインペンダントは、うまくいくかどうかもわからないのに
私に仕事を任せてくださった依頼主様のおかげでうまくいったのではと思います。
最後まで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。